單項選擇題
【案例分析題】わたしの知っている壽司屋の若い主人は,亡くなったかれの父親を今になっても尊敬している。死んだ肉親のことは多くの場合,美化されるのが普通だから,かれの父親の追憶もそれではないかと思っていたが,そのうち考えが変わってきた。
高校を出た時からかれは父親に壽司の握り方――壽司屋になるすべてを習った。父親はかれのご飯の炊き方が下手だとそれをひっくり返す(掀翻,倒掉)くらい厳しかったが,何といっても腕(本領)に差があるから文句は言えない。だが,ある日我慢できず「なぜぼくだけに辛く當たる(發(fā)火)んだ」と聞くと,「おれの子どもだから辛く當たるんだ」と言い返されたという。
父親が死んだ後,店を継いでみると,その辛く當たられた技術が役に立ち,なるほど,なるほどとかれはわかったそうである。
わたしはこの若主人の話を聞くたびに羨ましいと心の底から思う。そこには我々がある意味で理想とする父親と子どもの関係があるからである。
子どもはそのとき,技術だけではなく父親の生き方も學んでいく。自分の作る壽司に妥協(xié)しない父親,飯の炊き方ひとつにも誠意を持ってやる父親の生き方を技術と同時に習っていく。それが本來父親というものだ。文中の「それ」の指すことはどれか()。
A.死んだ肉親を美化すること
B.死んだ肉親を追憶すること
C.死んだ肉親を尊敬すること
D.死んだ肉親を追憶し,尊敬すること